「ダメ」と止めるより、「正解!」と伝える。正の強化でつくる、犬との叱らない暮らし。
犬の行動を変えたいとき、ぼくたちはつい「どうやってやめさせるか」を考えてしまいがちです。
でも、本当に大切なのは「代わりに何をしてほしいか」を伝えること。
inuaでは、叱ることで犬をコントロールするのではなく、YESを伝えることで、犬の自発性を育てたいと考えています。
これが、行動分析学に基づいた「正の強化」というアプローチであり、inuaが目指す、対等で穏やかな暮らしの土台となるものです。
正の強化という言葉、少し難しく聞こえるかもしれません。 でも、その仕組みはとてもシンプルで、合理的です。
ルールはひとつだけ。 「行動の直後に良いことが起きると、その行動は増える」という原理です。
たとえば、お座りをしたらオヤツがもらえた。 名前を呼ばれて戻ったら、優しく撫でてもらえた。
すると犬は、あ、これをすればいいことがあるんだと学習し、次も自分からその行動を選ぼうとします。
ぼくたちは、このご褒美(強化子)を使って、犬に「それが正解だよ」と伝えています。 いわば、犬に送るYESの合図です。
なぜ、叱るよりも、正解を伝える方が伝わりやすいのか。 それは、情報の精度が違うからです。
ダメと叱ることは、いわば「行き止まり」を教えるようなもの。 犬は「これは違うんだ」とはなんとなくわかりますが、「じゃあどうすればいいの?」という答えまではわかりません。
正解が見えないまま、手探りで行動しなければならないのです。
一方で、YESを伝えることは、ピンポイントでゴールを指し示すことです。
今のが正解!と明確な答えが返ってくるので、犬はあれこれと迷う必要がありません。 恐怖で萎縮することもなく、最短距離で行動を覚えることができるのです。
YESの合図を増やしていくと、自然と叱る出番はなくなっていきます。
それは、犬が「いいことがある行動」を優先して選ぶようになるからです。
悪いことをやめさせるためにエネルギーを使うのではなく、してほしいことを育てていく。
良い行動が増えれば、困った行動は自然と暮らしの中から減っていくのです。
ただ、ここでひとつ誤解してほしくないことがあります。
「叱らない」というのは、してほしくない行動を「ほったらかす」ことではありません。
危険なことや、どうしても困ることは、もちろん「NO」を伝える必要があります。
でも、NOを伝えるのに、叱る必要はないのです。
大声を出したり、怖がらせたりする必要はありません。
感情的に「叱る」ことと、犬の行動を「止める」ことは違います。
これからは、間違いを正そうと構えるのではなく、できたことを認めていきませんか。
そんな日々の積み重ねが、犬との時間を、もっと穏やかなものにしてくれるはずです。
正の強化とは、単なるトレーニングの技術ではありません。 犬とぼくたちが、心地よく暮らすための共通言語を持つということなのだと思います。