愛犬との穏やかな暮らしをかなえる、肯定のルール
「いうことを聞かせる」ことと、「穏やかに暮らす」こと
僕たちは時として、この二つを混同してしまいがちです。
たとえば、愛犬が足元で静かにしているとき。 それが「叱られるのが嫌でじっとしている」のか、 それとも「安心してリラックスしている」のか。
そんな関係を育てるのに、 無理にコントロールしようと、肩に力を入れる必要はありません。 もちろん、厳しい上下関係も必要ありません。
ただ、 なぜ、その行動をするのか。 何が、安心をつくるのか。
その仕組みを知るだけで、愛犬との暮らしはもっとシンプルで、無理のないものになるはずです。
信頼とは、「予測できる」ということ
「信頼関係」という言葉は、少し曖昧に使われがちです。 強い絆や、心のつながり。 そういった、精神論や感覚的なもので語られることが多いかもしれません。
でも、行動科学(ABA)の視点で見ると、信頼の正体はとてもシンプルです。
それは、「予測ができること」。
「こうすれば、いいことがある」 「ここなら、怖いことは起きない」
そんなポジティブな予感が、裏切られずに積み重なっていくこと。 それが愛犬にとっての「安心」になり、僕たちへの「信頼」になります。
逆に、「いつ怒られるかわからない」「昨日は良かったのに今日はダメ」という予測不能な状況は、犬を不安にさせてしまいます。 不安な犬は、自分を守るために吠えたり、落ち着きをなくしたりします。
穏やかさは、厳しさで押さえつけるものではなく、この「安心な予測」の積み重ねから、自然と生まれてくるものです。
この、良い結果(ご褒美)によって行動と安心を増やしていくサイクルのことを、専門的には「正の強化」と呼びます。 これは単なるしつけの方法論ではありません。 お互いが迷わずに暮らすための、シンプルな仕組みです。
見落としている「静けさ」に気づく
困った行動というのは、どうしても目につくものです。 吠えられたり、いたずらをされたりすると、僕たちはすぐに反応してしまいます。 それは、ある意味で仕方のないことかもしれません。
でも、一日を振り返ってみてください。
ソファでウトウトしている時間。 窓の外をなんとなく眺めている背中。 足元で静かにくつろいでいる姿。
実は、そんな「何もしていない時間」のほうが、ずっと長かったりしませんか?
僕たちはよく、この静けさを「空気」のように扱ってしまいます。 「静かにしているから、邪魔しないでおこう」 そう思うのが普通だと思います。
でも、ここが実は一番のチャンスです。
この「何もない時間」こそが、僕たちが求めている「穏やかさ」の正体だからです。
大げさに褒める必要はありません。 今の静けさを壊さないように、そっとオヤツを置いてあげたり、 目が合ったら、ふっと微笑んでみたり。
「今すごくいいよ」
そんな小さなサインを送るだけで、愛犬との関係は、驚くほど変わっていくはずです。
視点を、ほんの少しずらすだけ
何かを直そうと、必死にならなくても大丈夫です。
本当に必要なのは、何かを足したり、苦手を克服させたりすることだけではないのかもしれません。
ただ、愛犬がすでに持っている「穏やかさ」に気づき、「今のままでいいよ」と静かに肯定してあげること。
それは地味な作業ですが、その積み重ねが、お互いの安心をつくっていくのだと思います。
愛犬を変えようと頑張るのではなく、僕たちの視点を少しだけずらしてみる。
そうすれば、今よりも少しだけ、肩の力を抜いて向き合えるようになるはずです。